大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和36年(オ)732号 判決 1963年12月24日

上告人 伊達鞠子

被上告人 宮城県知事

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告人代理人弁護士徳田敬二郎の上告理由は別紙のとおりである。<別紙省略>

上告理由第一点について。

論旨は、本件農地に関する買収、売渡計画は取り消された旨を主張し、この点について、原判決は法令の解釈を誤り理由不備の違法があると主張する。

(1)  昭和二七年三月一七日、仙台市原町農業委員会が、本件農地に関する買収、売渡計画を取り消した事実は、原判決も認めている。しかし、当時施行されていた農業委員会法四九条は、農業委員会が、自作農の創設維持に関する事項について処分の取消をしようとするときは、あらかじめ都道府県知事の確認を得なければならない旨を規定しており、そして、原判決の認定によれば、右本件計画の取消については、宮城県知事の確認を得ていなかつたというのであるから、所論計画の取消は効力がないものと解するよりほかはない。論旨援用の判決は、農業委員会法施行前の判決であつて、本件の先例になるものではない。

(2)  宮城県農地部長に、異議の決定、訴願裁決について、所論のように知事の代決権限があつたとしても、原判決は、右農地部長が代決権を行使して本件計画を取り消し、または取消の確認をした事実を認定していないのである。論旨は原判決の認定していない事実を前提とするものというよりほかはない。

以上説明のように、本件農地に関する買収、売渡計画の取消の効力についての原判示に、所論のような法令の解釈を誤つた違法はなく、また、理由不備の違法もない。

同第二点について。

論旨は、原判決は、旧自作農創設特別措置法一六条、憲法二九条に違反する旨を主張する。

(1)  論旨は、原判決が、本件農地の売渡処分が買収処分より以前になされた事実を認定しながら、本件買収処分を無効でないとしたのを非難するのである。この点について原判決の認定するところによれば、本件農地の買収の時期は昭和二三年一二月二日であるにかかわらず、売渡の時期は同年一〇月二日であつて、買収の効力の生するより前に売り渡したことに帰することは論旨のとおりである。しかし、手続上の事由によつて右のような結果になつたからといつて、買収適地の買収処分を無効と解しなければならないことはない。原判決も説明するように、売渡処の効力が買収処分の発効まで延期されるものと解して少しも支障はないのである。けだし、ために不利益を受ける者がありとすれば、売渡の相手方だけであつて、特段の事情のないかぎり、上告人らの権利を侵害する事態を生ずる虞はないと考えられるからである。この点に関する原判示は正当である。

(2)  論旨は、本件買収計画及び売渡計画の買収、売渡の時期は後に変更されたにもかかわらす、変更された時期について公告手三美(四六)続をしないでした本件買収処分は違法であるというのである。買収、売渡の時期は、それぞれの計画の内容として記載されているのであるから、その変更については、当初の計画と同じように公告して縦覧に供すべき筋合ともいうことができる。しかし、原判示のような事情のもとにおいて、買収時期を遅らせたからといつて、関係人に不測の不利益を及ぼすことも考えられず、権利の円滑な変動を妨げる虞も考えられないから、右の手続上の違法は、本件買収処分を無効ならしめるほどの重大な違法ということはできない。原判決が、本件買収処分を無効でないとしたのは正当である。

以上説明のように、原判決は、所論のように、旧自作農創設特別措置法一六条の解釈を誤つた違法はなく、また、所論憲法二九条違反の主張は、その前提において理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 横田正俊 河村又介 石坂修二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例